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壁を超えて

もう随分前に一ヶ月ほどかけてドイツとオーストリアを旅したことがあります。何を隠そうドイツ文学部に在籍していた私ですが、あまりにもそれとかけ離れた日々を過ごしているので、ドイツ文学のことは聞かないで下さい、という有様でございます。

それでもその時の旅の情景は未だ印象に残るものが多く、取り分け印象に残っているのがある民家の風景でした。

それはウィーンを出発する夜行列車に乗ってチェコを経由し、ベルリンへと向かう列車の中でした。既に日中となっていた窓の外には延々と広がる田園風景。ところどころポツリと民家が見えます。

ふと目に入ったのは、ある民家。旧東ドイツ領となるその地域に立つ民家の窓は、コンクリートで塞がれていました。

「急いで造られたベルリンの壁。境界線に立つ建物は、家そのものも壁となり、西ドイツ側の窓はコンクリートで塞がれたのだ。」

そう授業で聞いたことが、今、自分の目の前に存在していたのです。塞がれた家に住むのは一体どんな気持ちなのだろう?すぐ隣に確かに存在しているものを無いものとして過ごす日々は、私には想像できませんでした。

既にベルリンの壁は崩壊し、ドイツは一つの国となったにもかかわらず、その家の窓はまだ塞がれたままでした。でも、家の周囲には広々とどこまでも続く野原があるのです。

自分の中にある壁を強く感じる時。自分は違うと何かに境界線を引くとき。それはあの窓を塞がれた家と同じなのでしょう。でもその周囲には広い空と大地が確かに広がっていたのです。
by sweetflowers | 2007-02-10 16:23 | My Trip
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